切削油の極圧剤とその作用について 油性切削油編

切削油の極圧剤の有無、種類、組み合わせ、含有量で面粗度や工具寿命が大きく変わります。しかしメリットばかりでなくデメリットが出てきます。極圧剤の組み合わせは無限でありその組み合わせで切削油の用途や性能、向き不向きが決まります。一般的な極圧剤と種類と作用を簡単に解説します。

1.油性剤 
脂肪油は代表的な油性剤であり多くの切削油に使用されている。切削油によく使われるのは菜種油などの植物油や牛脂やラードなどの動物油脂やそれらから精製されたエステルで、脂肪酸が金属面に吸着し、金属に反応して金属石鹸を生成するためと考えられている。0℃~200℃ぐらいの低温で効果がある。植物油や動物油脂が原料であり熱や水分で分解しやすく酸価の上昇や粘度の上昇等切削油の劣化の原因になりやすい。

2.塩素系極圧剤 
塩素化パラフィンや塩素化脂肪油がよく使用される。これらはある温度で分解すると同時に金属表面に反応して鉄系材料なら塩化鉄や銅系材料なら塩化銅となりもとの金属よりせん断強度の低い潤滑膜を作る。高温化では腐食性が強く鉄表面を錆びさせる傾向がある。塩素系極圧剤は安価でかつ効果が大きいので従来より広く使用されてきたが、近年燃焼するとダイオキシンの発生の恐れや環境対策からその使用を考え直されつつある。150℃~400℃で効果である。塩素化パラフィンの中でも短鎖塩素化パラフィンといわれる炭素数が 10 から 13 の直鎖のものは毒性から切削油では使用は避けられていたが中鎖鎖塩素化パラフィンといわれる炭素数が 14 から 17のものも欧州連合から規制の対象になってきている。また使用済み廃油も燃焼の際には有害な塩素ガスが発生するためリサイクル燃料はならないため処理費用も年々高額になってきている。従って切削油は塩素系極圧剤を使用しない塩素フリータイプが中心になっている。

3.硫黄系極圧剤 
脂肪油に硫黄を反応させた硫化脂肪油、エステルに硫黄を反応させた硫化エステルや鉱油に硫黄を反応させた硫化鉱油、また合成系のアルキルポリサルファイド、硫化オレフィンなどがある。塩素系極圧剤と同様、分解すると同時に金属に反応しせん断強度の低い潤滑膜をつくる。構成刃先の抑制効果が大きく仕上げ面重視の加工では効果がある。高温では反応が激しく腐食摩耗を起こし切削温度の高くなる重切削、高速切削ではこのために工具寿命が損なわれることがある。また活性タイプの硫黄を含有する油剤は銅、黄銅を腐食させるので注意が必要である。200℃~930℃まで効果がある。 

4.燐系極圧剤
塩素系極圧剤の代替の極圧剤として使用されるうちの1つであるが比較的低温領域から効果がある。また硫黄系極圧剤と併用することにより相乗効果を発揮する。

5亜鉛系FM剤
従来より油圧作動油等の設備潤滑油に使用されているジアルキルジチオりん酸亜鉛といわれているもので亜鉛、リン、硫黄の化合物で酸化防止能、腐食防止能、耐荷重性能、摩耗防止能等を有し、いわゆる多機能型添加剤であり潤滑作用ににおいても複雑な反応を示す。切削油においては一定の濃度から効き始め切削性に寄与する。硫黄系極圧剤と併用することにより相乗効果を発揮する。

6カルシウム系FM剤
従来よりディーゼルエンジン油の清浄分散剤に使用されている塩基性カルシウムスルホネートといわれるもので微細なカルシウムの粒子が切削点での工具の減摩効果に働く。硫黄系極圧剤と併用することにより相乗効果を発揮する。塩基性のため天然油脂、エステルの脂肪酸が反応しカムシウム石鹸になり固形物にタンク底部に蓄積したり配管がつまることもあり注意が必要である。