カルシウムスルホネートと硫黄系極圧剤の関係

切削油に使用されるカルシウムスルホネートの効果について考えてみたいと思います。カルシウムスルホネートは中性タイプのものと塩基性のものがあり金属加工油に使用されるのは塩基性のものです。この塩基性カルシウムスルホネートの中でオーバーベースと言われる高塩基性カルシウムスルホネートは硫黄系極圧剤と併用すると効果的だと言われています。カルシウムスルホネート単体では切削油の極圧性向上にはそれほど寄与しませんが硫黄系極圧剤はある程度添加されている上で併用すると非常に効果があります。元々はエンジンオイルや防錆油の添加剤として使用されてきました。カルシウムスルホネートは石油スルホン酸ナトリウムとカルシウム化合物を複分解反応させた油溶性界面活性剤です。カルシウムスルホネートの特徴は一般的に以下の通りです。

カルシウムスルホネート特徴

1. 優れた防錆効果
カルシウムスルホネートは金属表面に強力な防錆膜を形成します。これにより切削中や保管中に金属部品が錆びるのを防ぎます。特に湿気の多い環境や、腐食性の物質にさらされる場合に効果的です。塩基性のカルシウムスルホネートは酸性雰囲気や塩素系極圧剤の脱塩素分の防錆に効果的です。

2. 極圧(EP)性能の向上
カルシウムスルホネートは、摩耗防止添加剤(FM剤)としても機能します。高い圧力や温度下でもカルシウム分子が金属表面の微細な凹凸に入り金属表面に潤滑膜を維持し、摩擦や摩耗を減少させます。これにより、工具の寿命が延び、加工精度が向上します。

3. 洗浄性能
特に塩基性カルシウムスルホネートは油に混入スラッジや金属粉を効率よく分散させる能力があります。これによりディーゼルエンジンオイルには有効で酸化されたスラッジを中和させ油中に分散させる作用があります。

4. 優れた耐水性
カルシウムスルホネートは耐水性に優れています。これにより水溶性の切削油で加工後の防錆でその性能を発揮し長期間にわたり効果を維持することができます。

5. 熱安定性
高温環境下でも分解しにくく安定した性能を発揮します。これにより、高速切削や深穴加工など、過酷な加工条件でも潤滑性能を維持します。

6. 多用途性
カルシウムスルホネートは様々な金属に対して有効で鉄鋼、アルミニウム、銅など、幅広い素材に対応できます。

硫黄系極圧剤との併用効果

カルシウムスルホネートと硫黄系極圧剤は塩素フリー化が進むにつれ複数の硫黄系極圧剤併用、リン系、亜鉛系及びカルシウムスルホネートを添加した製品が開発されるようになりました。これは比較的低温から中温の塩素系極圧剤の反応温度領域の効果を補完する目的で添加されるようになりました。これらの添加剤は硫黄系極圧剤を適量含有されている処方で効果が高まります。カルシウムスルホネートと硫黄系極圧剤の併用効果はカルシウムスルホネートは基本的な摩擦低減を提供しその上で硫黄系極圧剤が高負荷条件下での反応効果を発揮するという仕組みです。これにより総合的な潤滑性能が高まります。

カルシウムスルホネートの注意点

塩基性カルシウムスルホネートは油性向上剤との相性があります。酸価の高い脂肪酸含有の油性向上剤を併用するとカルシウム石鹸になり固形物または粘稠物になることがあります。使用中に配管を詰まらせる事例もあり経時変化に気を付ける必要があります。またカルシウムスルホネート単体ではあまり効果は期待できません。

 

下の写真のチムケン試験の通り硫黄系極圧剤や他の極圧剤とカルシウムスルホネートは併用すると切削油の性能向上に重要な役割を果たしています。特に、加工精度の向上、工具の長寿命化、防錆効果の強化など、多くのメリットを期待できます。

カルシウムスルホネート含有なし カルシウムスルホネート0.5%添加分