最新の潤滑油の高品質ベースオイルについて

潤滑油のベースオイルの分類には、アメリカ石油協会(API)の基準に基づいて、グループⅠからグループⅤまでの5つのカテゴリに分けられています。現在の金属加工油の主流はグループⅠのものですが今回はグループⅢ以上の高品質ベースオイルについて考えてみたいと思います。

APIのベースオイル分類

グループⅠ : 最も基本的な精製鉱物油 粘度指数が低い。VI≧80~<120

グループⅡ:中程度の精製鉱物油で比較的グループⅠより高い粘度指数。VI≧80~<120

グループⅢ : 高度精製後 加水分解および異性化プロセスを経た鉱物由来合成油。GTLも含む。VI>120

グループⅣ:PAO(ポリアルファオレフィン)などの完全合成油。

グループⅤ : 上記以外の合成油(エステルなど)

 

1 グループⅢベースオイルの概要

グループⅢベースオイルは鉱物油を高温・高圧で水素化分解(ハイドロクラッキング)や水素化精製することで、不純物を取り除き、分子構造を改善したものです。

長所

  • グループⅢのベースオイルは粘度指数(温度による粘度の変化の少なさ)が高く、広範な温度条件で安定した性能を発揮します。韓国の2社が生産量の8割を占めます。
  • 通常の鉱物油に比べ、硫黄や窒素など不純物が少なく、よりクリーンなオイルです。
  • グループⅣ、グループⅤよりも製造コストが低いため、比較的安価でありながら高性能なオイルを提供します。
  • 韓国の精製2社が世界の生産量の8割を占めています。

短所

  • その他の合成油と比較すると安価であるが、現在主流のグループⅡに比べ高価である。
  • サプライヤーがグループⅡに比べ少ない。
  • すべて海外からの輸入品である。
  •    添加剤の溶解性が悪い。

 

2 グループⅣベースオイルの概要

グループⅣに属するPAOとはポリアルファオレフィンの略でエチレンを重合反応と水素化処理によって製造され、安定性を阻害する不飽和二重結合や硫黄や窒素などの不純物を含まない、均一な分子を有する化学物質です。液寿命が長く交換頻度少なくなるためエンジンオイルや密閉式の潤滑箇所での設備潤滑油として使用されています。

長所

  • 粘度指数が高く、高温においても厚い油膜の保持が可能。
  • ワックス分を含まないので流動点が非常に低く、低温粘度特性が良好なため内燃機関などの低温始動性や暖気運転時間の短縮が可能
  • 熱酸化安定性が良好で、高温での使用、および長寿命化が可能。

短所

  • 非常に効果であり切削油としてはコストパフォーマンスは悪くなる。
  • 引火点は粘度の割に低い。
  • 切削油として使用できる粘度グレードが少ない。
  • 添加剤の溶解性が悪い。

 主な使用用途

追加補給がない環境の交換周期が長くなるのがメリットになるようなコンプレッサー油、ギヤー油、軸受け油、エンジンオイルなど基本的に加工油よりも潤滑油に使用されることが多い。またPAOの特性(低流動点、高粘度指数、蒸発特性、低トラクション等)で省力化(メインテナンスコストの低減)、省エネルギー化などの効果を発揮し、結果的にトータルコストの削減につながることで採用されている事例もあります。

 

3 GTLについて

 Gas to Liquids(GTL)とは、天然ガス(メタン)を長鎖炭化水素に変換するプロセスあるいはこのプロセスで製造された炭化水素のことでシェルが特許を有しています。GTL技術は、主に天然ガスの豊富な供給源を活用するため、石油資源が枯渇している地域や、ガスの有効利用が求められている地域で注目されています。従来の鉱物油と同じ製品群に使えるため、互換性が高いです。製造はシェルのカタールで製造されています。

長所

  • その他のグループⅢのベースオイルやPAOと同様、不純物がほとんど含まず粘度指数、優れた低温流動性が特徴であるが完全合成油のPAOの方が優秀です。API分類ではグループⅢに属しますが従来のグループⅢベースオイルより若干、粘度指数が高い傾向にあります。

短所

  • 石油メジャーのシェルのカタールしか製造していないため、シェルの製品の潤滑油中心に使用される。流通が少なく、日本では入手が難しい。
  • 性能的に鉱物由来のグループⅢとほぼ同等のためコストパフォーマンスでは従来のグループⅢベースオイルの方が有利となる。
  • 研削加工用として低粘度油の粘度グレードが少ない。
  • 添加剤の溶解性が悪い。  

 

4 グループⅤベースオイルについて 

グループⅤベースオイルとは、その他の合成油、特殊なベースオイルとされており、グループⅠ〜Ⅳに該当しないすべてのベースオイルを含むカテゴリです。このため、非常に多様なオイルが含まれており、代表的な例としては、エステル、植物油、シリコーン油、ポリグリコールなどがあります。特にエステルは上記ベースオイルと比較して高潤滑、低粘度かつ高引火点、生分解性、カーボンニュートラル効果という特徴から注目されています。